ピロリ菌のまとめ。検査方法は?特発性血小板減少性紫斑病も原因?

2013年2月にピロリ菌除菌の対象に慢性胃炎が加わってから、潰瘍がなくても保険診療で除菌できるようになり、除菌する人が劇的に増えましたね。
その分、ピロリ菌のことでいろいろ聞かれることが増え、説明も大変になったのではないでしょうか?
調剤薬局にいると除菌の判定の検査について、なかなか知る機会がないので、検査についてもまとめております。
自分のメモ的意味合いが大きいですが、皆さん復習がてらご覧ください。


ピロリ菌とは。

胃に生息するらせん型の細菌で、ウレアーゼと呼ばれる酵素を分泌し、胃粘膜の尿素からアンモニアを産生することで強力な胃酸を中和して住みついています。


ピロリ菌に感染すると?

ピロリ菌が分泌したウレアーゼが毒素となって胃粘膜の障害を起こすと考えられていますが、それ以外にも、細胞空胞化毒素や分必酵素群、IL-8産生を誘導して炎症反応を引き起こすCagAなどが胃粘膜障害に関与していると指摘されているようです。

具体的には、
消化管疾患:萎縮性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃癌、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープ、機能性ディスペプシア、逆流性食道炎。
消化管以外の疾患:特発性血小板減少性紫斑病。
ここまではエビデンスがしっかりしています。

関連が指摘されている疾患はこれ以外にもたくさんありまして、
鉄欠乏性貧血、慢性蕁麻疹、虚血性心疾患、シェーグレンやリウマチなどの自己免疫疾患、アルツハイマー型認知症、糖尿病、肝硬変・・・・。

ホントかよ!と思わせるほど。

ピロリ菌と特発性血小板減少性紫斑病の関係は、ピロリ菌に対する抗体が、血小板をも破壊しているのが特発性血小板減少性紫斑病の原因と見られているようで、40~60%で除菌により血小板増加したとの報告があります。

潰瘍については、胃潰瘍の60~80%、十二指腸潰瘍の90~95%でピロリ菌に感染しているようです。
ピロリ菌恐ろしいですね。

胃癌については、国内の試験で除菌により発生が1/3になることが示されております。
その試験は、早期胃癌への内視鏡治療を受けた患者を対象に、除菌群と非除菌群での新規胃癌発生を前向きに調べたもので、除菌群の胃癌発生率は年率1.4%、非除菌群では4.1%だったようです。
ただ、2014年に発表された韓国の試験では有意差がなかったり・・。
あまりにもピロリ菌に長く感染している年配の方では、胃癌の抑制効果が期待できない場合もあるそうなので、除菌したから絶対安全!とは考えず、定期的な胃カメラなど検査はやっぱり必要です。
ちなみに、ピロリ菌は癌発生に直接関与するより、発生した癌の増殖や進展を促進すると考えられてるようです。


ピロリ菌の感染経路は?

水道の設備が整っていなかった昔は、井戸や川の水が感染源になっていたと言われていますが、水道が整った現在は、口口感染、糞口感染が有力視されています。
日本では糞口感染は低いでしょうけど。
ただし、感染は5歳未満の子供がほとんどで、大人になってから初めて感染することは稀です。
つまり、大人になってキスして感染することはなく、親が噛み砕いた食べ物を子供に口移しで与えると感染する可能性があります
ちなみに除菌後にピロリ菌が再陽性化する症例も報告されており、再感染率は年0.2~2%程度であると考えられています。
実は除菌されてなかったのか?
一度感染した人は感染しやすいのか?
何なんでしょうね。


ピロリ菌感染の診断方法は?

内視鏡による生検を必要とする侵襲的検査と内視鏡を必要としない非侵襲的検査、それぞれ3つずつ検査法があり、長所と短所があるのでまとめます。
ちなみに『侵襲』って「生体を傷つけること」って意味みたいです。

内視鏡を使う侵襲的検査

1.培養法
内視鏡で採取した胃生検切片をピロリ菌の発育環境下で3~7日培養し判定します。
ピロリ菌の唯一の直接的証明法。
特異性(*)に優れ、菌株の保存が可能で、菌株のタイピングや抗菌薬の感受性試験検査が可能です。

2.迅速ウレアーゼ法
尿素とPH指示薬が混入された検査試薬内に胃生検組織を入れます。
ピロリ菌がいたら、分泌されるウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアが生じ、PH指示薬の色調変化で有無を判定します。
迅速性に優れ、簡便で精度は高いが、検査結果を保存することはできません。
除菌後の感度(*)はばらつきが大きいです。

3.組織鏡検法
胃の粘膜の組織切片にHE染色またはGiemsa染色などを施し、顕微鏡で観察して有無を判定します。
検査結果の保存性が高く、ピロリ菌の存在の他に、組織診断(炎症、腸上皮化生、萎縮の程度の評価や疾患の組織診断)を合わせてできます。

内視鏡を使わない非侵襲的検査

1.尿素呼気試験法
13C-尿素を含む検査薬(ユービット)を内服し、服用前後の呼気中13C-二酸化炭素の量を比較します。
ピロリ菌がいたら、分泌されるウレアーゼにより尿素がアンモニアと二酸化炭素に分解され、呼気中13C-二酸化炭素量が増加し判定できます。
簡便で感度、特異度ともに高いが、PPIの服用中および服用中止直後の偽陰性に注意。

2.抗体法
ピロリ菌感染により産生された抗体を血液や尿を用いて判定します。
尿中抗体検査ラピランH.ピロリ抗体スティックは15分で判定可能で血清抗体測定と比べても遜色ないとのことです。
除菌成功後も血清抗体の陰性化あるいは有意な低下には1年以上を要することがあるため、除菌の成否を早く知りたい場合には適さないです。

3.抗原法
抗原抗体反応により糞便中の抗原の有無を測定します。
簡便で感度、特異度ともに高いく、モノクローナル抗体を用いる測定法は除菌前の感染診断および除菌判定においても信頼性が高いようです。

(*)特異度とは、「陰性のものを正しく陰性と判定する可能性」
   感度とは、「陽性のものを正しく陽性と判定する可能性」


各検査法の感度と特異度

除菌検査

除菌薬内服後には、除菌が失敗であっても一時的に菌量が減少するので、判定は除菌薬内服後4週以上経ってから行う。



ピロリ菌の除菌は?

保険適応で2回除菌を行うことができます。
1次除菌は、
PPI(胃酸の分泌を抑える薬)+クラリスロマイシン(抗生剤)+アモキキシリン(抗生剤)の3剤併用療法で行います。

アモキシシリン、クラリスロマイシンは胃酸によって胃内のPHが下がると抗菌活性が低下してしまうので、効果を十分発揮するには胃酸を抑えるPPIが必要になります。
ちなみにPPIによって除菌率に差がないことが報告されているようですが、それはネキシウム発売以前の話しです・・。

3剤組み合わせ製剤のランサップやラベキュアがよく出ますが、別にセットにしてもらう必要はありません。
ジェネリック医薬品もピロリ菌の除菌の適応があるので、ジェネリック医薬品希望であればバラバラに処方してもらってもいいです。
ランサップ400と800の使い分けについては、
ランサップ400と800の使い分けは?喫煙者には800が効く?
をご覧ください。

除菌率は2000年当時90%を超えていましたが、クラリスマイシンの耐性増加により、現在全国的には80~85%、都市部では70%以下に低下しているようです。

副作用としては軟便や下痢、味覚異常などがありますが、飲み終われば改善するので軽い場合は服用を継続します。
発熱や湿疹、血便、トイレから出てこれないほどのひどい下痢の場合は服用を中止してください。

基本は7日間服用ですが、例えば5日間しか服用できなかったら失敗するのか?
2000年のデータですが、5日間服用で約7割除菌に成功しています。
今はもっと落ちてると思いますが、意外と成功しちゃうんですね。

あと、除菌中は禁煙と禁酒をしましょう。
理由については、
ピロリ菌の除菌時に禁煙・禁酒を勧める理由は?アルコールはOK?
をご覧ください。

1次除菌で失敗した方は薬を変えてもう一度除菌薬を服用します。
2次除菌は、
PPI+メトロニダゾール+アモキキシリンの3剤併用療法で行います。
これで9割程度除菌できると見込まれています。
2次除菌中の禁酒は絶対です。
お酒によりジスルフィラム-アルコール反応が起き、腹痛、嘔吐、ほてり等(悪酔い)が現れることがあるので、メトロニダゾール内服中は飲酒を避ける必要があります。

2次除菌で失敗したら次は3次除菌になります。
3次除菌については、
ピロリ菌3次除菌のレジメンの処方例。自費でお薬代(費用)はいくら?
をご覧ください。

ピロリ菌を除菌すると胃酸の分泌量が増え、逆流性食道炎になることがあります。
症状があれば先生にご相談ください。

興味があれば ブログ一覧 もご覧ください。